コラム
へずまりゅうさんの「襲撃」について
はじめに
みなさんはYouTubeをご覧になりますでしょうか。近年はテレビよりもYouTubeなどをよく見るという方も多く、へずまりゅうさんをご存じの方も多いのではないでしょうか。
元迷惑系Youtuberであるへずまりゅうさんは、過去には迷惑行為を行っておりましたが、最近では奈良公園の鹿を保護する活動を行っていることでも知られています。
今回は、元迷惑系YouTuberとして知られているへずまりゅうさんの奥様が「襲撃」されたという問題について、Xへの投稿のため、真偽はわかりませんが、へずまりゅうさんの主張が真実だと仮定した場合に、加害者にどのような責任が生じるか考えてみたいと思います。
「襲撃」について
へずまりゅうさんのX(旧twitter)の投稿によると、奥様に対して、人がたくさんいる前で「ブスやな、迷惑かけんなや、殴ってみろや」と大きな声を出しながら「襲撃」してきたと記されています。
この投稿から、「襲撃」というのは、奥様に対して殴る、蹴るなどの物理的な暴行を加えたわけではなく、大勢の前で罵声を浴びせるなどの精神的な攻撃を加えたものであると考えられます。
そこで、ここからは、精神的な攻撃を加えた場合にどのような法的な責任が生じるか、刑事責任、民事責任に分けて検討していきたいと思います。
刑事上の責任について
(1)名誉棄損罪について
名誉棄損罪は、他人の名誉(社会的な評価)を害するおそれを生じさせた場合に成立する犯罪です。成立するためには、①公然と、②事実を適示し、➂人の名誉を毀損することが必要です。
刑法230条
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
① 「公然と」とは、不特定又は多数人が認識することができる状態をいいます。
今回の「襲撃」では、大勢の前で罵声を浴びせているため、多数人が認識しうる状態であったと言える可能性があります。
②「事実を適示し」とは、人の社会的評価を下げる具体的な事実を示すことをいいます。事実が真実であるか虚偽であるかは関係ありません。
今回の「襲撃」では、「ブスやな、迷惑かけんなや、殴ってみろや」という発言だけだと仮定すると、抽象的な罵声であるため、具体的な事実を適示しているとまでは言えない可能性が高いです。
③「人の名誉を毀損する」とは、社会的な評価を下げるおそれを生じさせることをいいます。
本当に社会的な評価が下がったことまでは必要ではなく、そのおそれが生じただけでも要件を満たします。
今回の「襲撃」では、大勢の前で罵声を浴びせられているため、社会的評価を下げるおそれを生じさせたと言える可能性が高いです。
今回の「襲撃」では、具体的な事実を示したとは言えないため、名誉毀損罪は成立しない可能性が高いと考えられます。
(2)侮辱罪について
侮辱罪も、他人の名誉(社会的な評価)を害するおそれを生じさせた場合に成立する犯罪ですが、名誉棄損罪と異なり、具体的な事実を示さなくても成立する犯罪です。
刑法第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
したがって、今回の「襲撃」のように具体的な事実を示さずに罵倒した場合にも侮辱罪は成立します。
(3)まとめ
今回の「襲撃」では、具体的な事実を示したわけではなく、罵倒しただけの可能性が高いため、名誉毀損罪が成立する可能性は低いです。
一方で罵倒しただけの場合にも成立する侮辱罪で罪に問える可能性が高いです。
なお、SNSなどでの誹謗中傷でも名誉毀損罪や侮辱罪に問われてしまうこともあるため、SNSなどの利用にあたっては、軽々しく他人を誹謗中傷しないように注意する必要があります。
民事上の責任について
民事上の責任は、刑事上の責任とは異なり、刑罰が科されるわけではなく、加害者から被害者に対して金銭による賠償を請求できるものです。
今回のように「襲撃」により、奥様は救急車で病院に運ばれた場合には、病院での治療代などの損害を賠償する責任が生じる可能性があります。
今回の「襲撃」では、元々精神的に不安定だった奥様に対して罵声を浴びせたとのことですので、病院での治療代の一部を負担させることができる可能性があります。
また、罵声を浴びせられたことに伴う慰謝料を請求することができる可能性も高いです。
名誉毀損の場合の慰謝料の相場は、個人の場合10万円~50万円程度とされています。
一方で侮辱の場合には、数万円程度にとどまることが多いです。
今回の「襲撃」は、侮辱となる可能性が高いので、数万円程度の慰謝料の請求ができると考えられます。
最後に
近年では、SNSの急速な普及に伴い、へずまりゅうさんのような知名度のある人だけでなく一般人であっても誹謗中傷の被害に遭う可能性が高まっています。
ネット上での誹謗中傷の場合には相手を特定する必要がありますが、プロバイダに対する開示請求によって相手を特定することも可能となっています。
誹謗中傷の被害を受けており、相手方に慰謝料などを求めたい場合には、弁護士などに相談することも検討されてみてはいかかでしょうか。