コラム
中居正広さんの「示談」について
はじめに
昨年末に、元SMAPの中居さんが女性トラブルで9,000万円の示談金を支払ったという報道がありました。SMAPは、中居正広、木村拓哉、香取慎吾、稲垣吾郎、草彅剛の5人により1988年に結成され、2016年に解散したアイドルグループとして知られています。
解散後も、メンバーそれぞれが多方面で活躍しています。中居さんも多くのレギュラー番組をもっており、「中居くん」と愛着を込めて呼ばれていました。そのような中で、中居さんが女性トラブルで示談金を支払ったというニュースは、世間を騒がせています。
また、女性トラブルについて、女性が所属していたとされるフジテレビもその事実を知っていたとしてフジテレビにも世間の厳しい目が向けられています。
そこで今回は、よく聞く機会がある「示談」及び中居さんの示談について解説をしていきたいと思います。
示談とは?
示談とは、民法上の和解契約の一種であり、当事者が互譲(お互いに譲り合うこと)して争いをやめることを約束することをいいます(民法695条)。
例えば、交通事故、労働トラブル、不倫などがあった場合に、裁判所に訴えを提起して、相手方に損害賠償を請求するのではなく、当事者同士で話し合い、賠償額などを合意する際に利用されます。
また、刑事事件の場合にも、加害者が被害者に対して被害額を支払うことなどによって、示談をすることがあります。起訴するか不起訴にするか否かは検察官が判断しますが、示談が成立している場合には処罰の必要性が低下するため、不起訴になる可能性を上げることが可能です。
第695条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
示談の内容について
では、示談の内容としてどのようなことが定められるのでしょうか。前提として、示談は口約束でも成立しますが、示談が成立したことを客観的に示すため、書面すなわち示談書を作成するのが一般的です。
示談の内容としては、以下のような内容を定めるのが一般的です。
・紛争の内容
・加害者から被害者への謝罪
・示談金の額や支払方法
・誓約事項
・精算事項
また、労働トラブルなどの場合には、誓約事項として、口外禁止条項が記載されることも多いです。
口外禁止条項とは、トラブルの詳細や示談の内容、解決までの経緯などを第三者に公表しないと確認する取り決めです。このような取り決めをすることによって、一方当事者の社会的な評価が低下することを避けることができます。
口外禁止条項を記載する場合には、併せて口外禁止条項に違反した場合には〇〇円の損害を賠償するという条項が記載されることもあります。
この場合、一方の当事者が口外禁止条項に違反して、第三者にトラブルの内容を漏らした場合には、相手方当事者に対して損害賠償して金銭を支払う必要があります。
もっとも、示談は示談をした当事者の間でしか効力が及ばないため、仮に当事者ではない第三者が既にトラブルの詳細などを知っており、誰かに洩らしたとしても、損害賠償を請求することはできません。
また、トラブルを知っていた第三者がその内容を漏らしたのか、当事者がその内容を漏らしたのか否かは判別することが難しい場合も少なくないため、実際には、損害賠償を請求することは困難となる場合も多いです。
なお、示談の締結の際には精算条項として、示談の合意内容以外に債権債務が存在しないことを記載するのが一般的です。そのため、一度示談を締結すると、原則として訴訟などで争うことはできなくなってしまいます。
中居さんのケースについて
(1)示談について
ここからは、中居さんのケースについて解説していきます。中居さんは一部報道によれば、9,000万円の示談金を支払ったといわれています。つまり、トラブルについて民事訴訟などで争わない代わりに9,000万円の金銭を支払うという示談をしたと考えられます。
さらに、中居さんは守秘義務があるとして詳しい内容を説明していません。また、示談金が本当に9,000万円だった場合、かなりの高額ですので、示談金の支払合意とともに口外禁止条項も設けられていたと思われます。
(2)口外禁止条項違反について
今回、口外禁止条項が設けられているにもかかわらず、トラブルがあったことが報道されてしまいました。
そこで中居さんとしては「相手方が守秘義務を破った」=「口外禁止条項に違反した」として相手方に対して損害賠償請求をすることが考えられます。しかし、前述のとおり、あくまでも口外禁止条項は中居さんと示談を結んだ相手との間でしか効力がありません。
そのため、示談を結んだ相手以外にトラブルを知っている第三者がトラブルについて誰かに口外したとしても、示談の相手やその第三者に損害賠償を請求することはできません。
また、示談を結んだ相手が守秘義務に違反して秘密を洩らしたのか、それとも、相手以外の第三者が口外したのか判断することは難しく、示談を結んだ相手が守秘義務に違反した事実を立証することが困難な場合も多いです。
そのため、相手方に損害賠償をすることは難しいと思われます。
また、守秘義務に違反した場合には、示談を解除するという条項を記載していた可能性もあります。この場合には、示談を解除して示談金の返還請求をすることも考えられます。
しかし、前述のとおり示談を結んだ相手が守秘義務に違反した事実を立証することは困難な場合が多く、示談金の返還請求をすることも難しいと思われます。
最後に
示談によってトラブルを解決すれば、長期間に及ぶ裁判をすることなく、早急に解決することができます。もっとも、一度示談をしてしまうと追加の損害賠償を相手に求めることは原則としてできません。
また、どのような内容で示談をすべきかという判断も難しい場合が多いです。そのため、法律の専門家である弁護士などに依頼することも検討することが必要です。