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中居正広さんの「法的責任」について

はじめに

前回は元SMAP中居さんの示談について解説をしましたが、中居さんのトラブルの関係でフジテレビでは多くのスポンサーがCMの放映を取りやめるなどしており、中居さんのみならずフジテレビに対する批判の目も向けられています。

前回の記事はこちらから

「中居正広さんの「示談」について」のコラム

そのような中、フジテレビはトラブルについての会見を開きました。会見はおよそ10時間という長時間に及ぶものであったこともあり、注目を集めています。また、会見では第三者委員会の調査結果によっては中居さんへの損害賠償請求も可能性もゼロではないという趣旨の発言もありました。

そこで今回は、中居さんが負う可能性のある法的責任について解説していこうと思います。

違約金について

中居さんは、CMに出演していました。しかし今回のトラブルによってすべてのCMの放映が中止となっています。

CM出演契約等においては、企業イメージや商品イメージを損なう行為をした場合には、契約の解除や違約金を支払うことなどの条項があることが多いです。

そして違約金の額は放映期間がどれくらい残っていたのか、契約上の違約金の額がいくらかによっても異なりますが、その額が膨大になってしまうケースも多いです。

そのため、場合によっては数億円規模の違約金を支払わなければならない可能性があります。

損害賠償について

 (1)請求の根拠について

 会見ではフジテレビは中居さんへの損害賠償請求について消極的な姿勢を示していましたが、違約金だけでなくフジテレビから中居さんへ損害賠償請求がなされる可能性もゼロとはいえません。損害賠償請求の根拠は不法行為(民法709条)であると考えられます。そこで不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があるか検討します。

 不法行為とは、故意又は過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為をいいます。不法行為に当たる場合には加害者は被害者に対して損害を賠償する責任を負います。

(不法行為による損害賠償)

第709 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(2)不法行為にあたるか。

 では中居さんが起こしたトラブルが不法行為に当たるのでしょうか。不法行為に当たるといえるためには①故意または過失があること②被害者の権利利益を侵害したこと③損害が発生していること④侵害行為と損害との間に因果関係があることの4つの要件が必要です。

 まず、①について、故意または過失とは、わざと行った場合かうっかり行ってしまった場合をいいます。

中居さんはフジテレビの社員である女性とトラブルを起こしました。女性がフジテレビ社員であることから、このトラブルが明らかになればフジテレビにも何らかの損害が及ぶ可能性があるということはある程度予想がついたと考えることができます。したがって過失が認められる可能性はあります。

 次に、②について、権利利益には営業上の利益も含まれます。

フジテレビは今回の中居さんのトラブルによってフジテレビ番組のスポンサーである多くの企業からCMの差し替え依頼がなされており、フジテレビは差し替えた広告費を請求しないこととしています。

その結果、フジ・メディア・ホールディングスは2025年3月期の通期業績予想を下方修正すると発表しており、売上高は5983億円から5482億円へと501億円減少し、純利益は、これまでの290億円から98億円へと66.2%減少し、フジテレビは放送収入の合計が233億円減る見通しとなっています。

フジテレビは、中居さんのトラブルによって放送収入が減少しており、フジテレビの営業上の利益を侵害したといえる可能性があります。

さらに、③については、CMの差し替え等により放送収入が減少しているため、損害が生じているといえます。

また、④について、上記のCMの差し替え等は、中居さんのトラブルが明るみになったことによって発生しており、その結果放送収入が減少しているため、因果関係も認められる可能性が高いです。

 したがって、中居さんは上記のトラブルによってフジテレビに損害を及ぼしたといえ、損害賠償請求が認められる可能性があります。

もっとも、中居さんと女性との間にどのようなトラブルがあったのか、民事事件のトラブルなのか、刑事事件のトラブルなのか、そのトラブルの内容によっても損害賠償が認められるのか、認められるとしてもその額がいくらなのかは変わってくると考えられます。

(3)過失相殺について

 中居さんのトラブルがフジテレビに対する不法行為にあたるとしても、フジテレビ側にも過失がある場合には、過失相殺により損害賠償額が減少する可能性があります。

 過失相殺とは、損害賠償請求において、損害の発生につき被害者にも過失がある場合に、損害の公平な分担の見地から、賠償額について一定の減額を行うことをいいます。

 例えば、交通事故を起こしてしまった場合で考えると、被害者にも交通事故を起こしたことについて過失があった場合に、加害者と被害者の過失の割合に応じて賠償額が減額されます。

第722 (略)

 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

 では、今回のトラブルについてフジテレビに過失は、認められるのでしょうか。

 報道や会見によるとフジテレビは、中居さんと女性との間にトラブルがあった事実をトラブル直後から知っていたようです。そのことを知りながら、「事案を公にせず、他者に知られずに仕事に復帰したいという女性の意思を尊重し、心身の回復とプライバシーの保護を最優先に対応した」として、中居さんが司会を務める番組を継続させていました。

また、フジテレビは、一般公開の会見を開く前に、非公開で会見を開いており、その会見の方法には多くの批判が寄せられていました。このようなフジテレビ側の対応によって、フジテレビの社会的評価が低下し、スポンサー企業がCMの差し替えを要求してきた側面もあります。

 そのため、フジテレビが中居さんと女性との間のトラブルが発生したのちに適切な対応を行っていれば、フジテレビの営業利益もここまで低下することはなかったといえる可能性があります。

したがって、フジテレビの営業上の損害は中居さんがトラブルを起こしたことに起因するものである一方、フジテレビ側も損害を防止するために適切な対応をすべきであったにもかかわらず、それをしておらず、過失があったということができます。

よって、一定限度で過失相殺が認められる可能性は高いといえます。

最後に

中居さんはフジテレビへ損害賠償義務を負う可能性がありますが、その額は過失相殺によって一定限度で減額される可能性が高いです。

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