コラム
最上あいさんの「金銭トラブル」について
はじめに
2025年3月11日、ライブ配信サービスの1つである「ふわっち」において人気ライブ配信者(ライバー)の1人であった「最上あいさん」こと佐藤愛理さんが、東京都新宿区の路上で刺殺されるという事件が発生しました。
一部報道によれば、警視庁が現行犯として逮捕した男性と最上あいさんとの間には、金銭トラブルがあり、実際に貸金返還請求訴訟を宇都宮地方裁判所に提起し、勝訴したものの、満足する返済は受けられなかったことが本件の動機となったとされています。
今回は、知人・友人間の金銭トラブルについての予防について解説していきたいと思います。
知人・友人間の金銭トラブルでよく問題となるのが、AさんがBさんに100万円を渡したといった場合に、
この「100万円」はAさんが「貸した」ものなのか、「あげた」ものなのかについてAさんとBさんで認識が異なる場合です。
この場合に、どのような事情を考慮して「貸した」と「あげた」を区別するのでしょうか。
まず、金銭を「貸した」場合、法的には消費貸借契約(民法587条)という整理になります。条文は以下のとおりです。
(消費貸借)
第587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
条文の中で注目するべきポイントは、「同じ物をもって返還をすることを約して」・・・「相手方から金銭その他の物を受け取ること」という部分です。
つまり、金銭の貸し借りという金銭消費貸借契約は、①返還の合意と②金銭の交付の2つの事実がないと成立しないことになります。この2つの事実をどのように証明することができるかというのが、金銭トラブルを防ぐポイントとなりますので、後ほど詳しく解説します。
次に、金銭を「あげる」場合、法的には贈与契約(民法549条)という整理になります。条文は以下のとおりです。
(贈与)
第549条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
条文の中で注目すべきポイントは、「無償で相手方に与える意思を表示し」と「相手方が受諾をすること」という部分です。つまり、①財産を無償で与える意思表示と②贈与を受諾する意思表示の2つの事実が必要となります。
ちなみに、「車を買ってあげる」と言ったのにくれないのはおかしい、といった口約束の贈与についてトラブルとなることがあります。この点は民法で以下のように規定されています。
(書面によらない贈与の解除)
第550条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
つまり、契約は口頭でも成立するということは聞くこともあるかと思いますが、贈与契約については、「書面」によらない限り、履行をしていなければいつでも「解除」することができるとなっています。
なお、LINEやメールでのやり取りが民法550条の「書面」に当たるかについては、争いがあり、現時点では、有力な裁判例があるわけではありません。そもそも、「贈与契約」については、書面によらない限り「解除をすること」ができるとした趣旨は、「軽率に贈与することを予防し、かつ、贈与の意思を明確にすることを期するため」(最高裁昭和60年11月29日第二小法廷判決)とされています。
このような制度趣旨に加えて、民法の他の規定(民法第446条第3項)のように「電磁的記録によってされたとき」が記載されていないこと等からすればLINEやメールは、民法550条の「書面」には当たらないと整理される可能性が高いといえます。
もちろん、具体的事情により異なる場合もあり得るので、軽率にLINEやメールで贈与を期待させる発言をすることは避けた方が良いと思います。
紛争になったときに「返還することを約して」を証明する方法
AさんとBさんの間で「貸した」のか「あげた」のか、裁判で争いになった場合には、お金を渡した側が「返還すること」を約束していたことを証明しなければいけないことになります。それでは、どのような事実があれば、「返還すること」を約束していたと証明できるでしょうか。
まず、一番望ましいことは、「借用書」や「金銭消費貸借契約書」といった書面による契約書が存在することです。このようなものを友人・知人間で作ることは稀かもしれませんが、金額が大きい場合には特に作成することが望ましいです。
また、可能な限り「本人が作成した」ということを明確にするために実印を使用することや公証役場で公証人に認証いただいた公正証書にするという対応をすれば、より明確にできると思います。
次に、メールやLINE等の客観証拠でのやり取りを残すことです。この場合には、「金額」「返済の時期」「貸した理由」などの事情を残しているとより裁判官に「返還すること」を合意したと説明しやすくなるため、望ましいです。
さらに、今まで述べたような客観的な証拠がない場合にも、当事者間の関係(家族や親しい友人であるか等)や貸付の理由、貸し付けた金額等の個別具体的な事情から認められる場合もありますので、金銭トラブルになった際にはぜひ弁護士にご相談ください。
金銭の交付を明確にすることの重要性
金銭トラブルの中には、「そもそも金銭を受け取っていない。」という形で争われることも少なくありません。このような場合は、友人・知人間で現金でのやり取りがされる場合に多いです。
裁判になった場合には、「金銭の交付」という事実も貸したと主張している側が証明しなければなりません。この事実は、当たり前に相手も認めてくれるという過信のもとに明確にする努力を怠ることもありますので、お金を貸すときには、金融機関を利用する等、紛争化した場合に明確にできるようにすることが重要です。
最後に
友人・知人間における金銭トラブルは、当事者間では水掛け論となり、うやむやにされてしまうことがよくあります。このようなトラブルを未然に防ぐことも重要ですが、トラブルになった際には、個別具体的な事情によって対応が変わってくると思いますので、ぜひ弁護士にご相談ください。