コラム

COLUMN

吉本興業「オンラインカジノ」問題について

はじめに

2025年4月3日、吉本興業所属タレントである「ダイタク」の大さん、「9番街レトロ」のなかむら★しゅんさん、「ダンビラムーチョ」の大原さんら6名がオンラインカジノでお金を賭けていたとして、賭博の疑いで警視庁が書類送検しました。

オンラインカジノによる賭博問題では、プロ野球界ではオリックスに所属する山岡泰輔投手や、芸能界では若手漫才師の日本一を競う「M-1グランプリ」で連覇を達成した「令和ロマン」の高比良くるまさんが活動自粛を余儀なくされるなど社会問題に発展しています。今回は、オンラインカジノ問題について解説していきたいと思います。

オンラインカジノがなぜ違法なのか?

オンラインカジノとは、スマートフォンやパソコンを通じてオンライン上でゲームを行い、その結果に対して現金や暗号資産、電子マネー(以下、「財物等」といいます。)などを賭けるものです。

オンラインカジノといってもその内容は様々であり、「カジノ」のイメージにあるようなスロットやカードゲームだけではなく、パズルゲームのようなものや格闘技・スポーツなどの勝敗を競うものも含まれるとされています。

オンラインカジノの利用はよく「賭博罪」にあたると聞くと思いますが、実際の「賭博罪」の条文は以下のとおりです。

(賭博

第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

 そもそも条文にある「賭博」とは、偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うことであると一般的に考えられています。オンラインカジノが、刑法上の「賭博罪」にあたるとされるのは、まさにオンライン上のゲームの勝敗に「財物」を賭けるというシステムになっているからです。

なぜ「賭博」は規制されているのか、「財物」と「一時の娯楽に供する物」の違い

 賭博が規制されている根拠として判例では、国民一般の健全な勤労観念や国民経済等の公益を保護するためとしています(最高裁判決昭和25年11月22日参照)。

少しわかりにくいと思いますが、偶然の事情によって財産を得ようとする争い(賭博)を広く認めてしまうと、楽に稼げる手段と認識してしまうことで働く意欲を削ぐことになってしまうこと、賭博は結果的に金銭の争いとなるため、暴行や脅迫等の犯罪を誘発するおそれがあることなどが理由であると考えられます。

一方で、「一時の娯楽に供する物」を賭けた場合は、刑事責任は生じないとされており、具体的には、その場で直ちに消費されるものである飲み物や食事等がこれに当たるとされています。裁判例では、賭けたものの「価格の大きさ」と「即時に消費されるか」の2つの観点を総合的に見て「一時の娯楽に供する物」にあたるかを判断されています。

オンラインカジノで逮捕される可能性があるのか

 警察庁の発表では、オンライン上で行われる賭博事犯について、令和4年中で59人、令和5年中で107人、令和6年中で279人が検挙されていると発表しています。

 「検挙」という言葉は、法律用語ではないので、正確な定義はありませんが、犯罪の容疑者を特定し、刑事事件として処理したことを「検挙」というと一般的には考えられます。検挙した人数の中には「逮捕」等の身体拘束をせずに在宅事件として処理された人も含まれていると考えられますので、検挙された人数と逮捕された人数が同数という意味合いではないと推測されます。

 いわゆる身体拘束を意味する「逮捕」がなされるかは、個別具体的な事案によりますが、「単純賭博罪」より刑罰が重くなる「常習賭博罪」に当たると疑われるケースでは、逮捕されるリスクがより高まるといえます。

(常習賭博及び賭博場開張等図利)

第186条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。

常習賭博罪に当たるかの考慮要素

 「常習賭博罪」における「常習」を認定するための事実としては、①賭博の回数、②賭博の種類・態様、③前科・前歴の有無等が重要な考慮要素になると考えられています。

まず、賭博の回数については、一定の期間にどれほど反復して賭博行為を行っているかという観点で考慮されることが多いです。例えば、10年間に5回というケースよりも10日間に5回というケースの方が、「常習」である認定を受けやすくなると考えられます。

次に、賭博の種類・態様では、特に賭けた金額が注目されることが多いです。当然に多

額と評価されるかは、絶対的な金額も考慮されますが、賭博行為をした人の収入に比してどの程度の金額を賭けていたかという相対的な要素も考慮されることになります。今回のオンラインカジノ問題では、一部の著名人が収入に比して極めて高額な金額を賭けていたという点が報道されていますが、この点は、「常習性」を認定する事実として重要となります。

 さらに、「前科・前歴」の有無ですが、考慮要素の中でも大きい考慮要素になると考えられます。そもそも「前科」とは、刑事裁判で有罪判決を受け刑が確定した事実を指し、「前歴」とは、捜査機関から犯罪の容疑をかけられ、捜査の対象となった経歴をいいます。

 もちろん「前科・前歴」の内容が「賭博」と関係ない場合や「賭博」であっても手法が異なり、相当期間が空いている等の事情があれば、「常習」を認定する要素にはならない場合もあります。

最後に

 今回のオンラインカジノ問題では、一連の報道がなされるまで「違法であること」を知らなかったという方も多かったと思います。

弁護士は、何か事件が起こってから頼るものと思われがちですが、法的問題を未然に防ぐということも重要な役割であると考えています。

佐々木法律事務所では法律に関する問題で悩まれた際に、リサーチとして意見書を提出してほしい場合や法律相談として対応することも可能ですので、ぜひご相談ください。

【当事務所へのご相談はこちらをタップ】

コラム