コラム
社員が刑事事件で逮捕された!~経営者が取るべき対応とは?~

はじめに
2026年5月25日夜、読売ジャイアンツで一軍監督を務めていた阿部慎之助氏が娘への暴行容疑で現行犯逮捕され、翌日の0時過ぎに釈放されるという事件がありました。かかる事件を受けて、阿部慎之助氏自身が株式会社読売巨人軍の取締役オーナーである山口寿一氏に辞任を申し出て受理されるという事態に発展しました。
この一連の出来事は大きな社会的な注目を集め、「AIに相談して判断することの危険性」「警察や児童相談所の対応が適切であったか」「辞任の申し出を受け入れるという球団の判断は妥当か」等の様々な視点から議論を呼んでいます。
今回は、一連の出来事について少し変わった視点として経営者の立場から、自らの会社の社員が刑事事件を起こした場合には、どのように対応をするべきかについて過去の裁判例等を用いながらわかりやすく解説します。
刑事事件というと、「自分の会社にはそのようなことに巻き込まれる社員はいない。」と考える経営者の方もいらっしゃるかと思います。しかし、今回の一連の出来事から分かるように些細な出来事から、暴行事件に巻き込まれることや「痴漢」「万引き」「薬物事犯」など世の中には、皆さんが思うよりも身近に刑事事件が起きています。少しでも事前に知識を有していることで、万が一の事態に冷静に対処できますので、ぜひ最後までご一読ください。
刑事事件を起こしたらクビにして良いのか?
自社の社員が刑事事件を起こした場合に、経営者はすぐに「解雇」という選択肢をとって良いのでしょうか。経営者としては、「自社の信用問題となる!」と考えて、すぐにでも解雇という対応を取りたいと考える方も多いのではないかと思います。
しかし、この場合の「解雇」も法的に問題ない内容でなければ、不当解雇として労働紛争となり、かえって経営者側が思わぬ費用負担(未払い賃金請求や弁護士費用等)が生じることにもなりかねません。
そこで、社員が刑事事件を起こした場合における「解雇」とは「懲戒処分」の1つと整理されることが多いと思いますが、社員が刑事事件を起こしたことは、「懲戒処分」の対象となるのでしょうか。
私生活上の行動と懲戒処分
懲戒処分は、会社における服務規律や企業秩序を維持するために、設けられた制度の1つであり、私生活上の行動は、「会社における」服務規律や企業秩序とは無関係ですので、原則として懲戒処分の対象ではありません。
しかし、労働者は、労働契約に付随する義務として、企業秩序をみだりに毀損してはならないという誠実義務を企業に対して負っていると一般的に整理されています。この誠実義務には、私生活上においても、企業の社会的評価を毀損する行為や、企業の事業活動に支障を生じさせる行為をしないという義務も含まれています。そのため、判例でも①企業秩序に直接の関連を有するもの、かつ②企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものについては、私生活上の行動であっても懲戒処分の対象として規制の対象となるとされています(最判昭和49年2月28日民集28巻1号66頁「国鉄中国支社事件」)。
以上のとおり、社員が刑事事件を起こした場合には、その刑事事件の内容が①企業秩序に直接関連するか、②企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に言えるかという2つの基準から、個別具体的に検討する必要があります。
以下では、過去の裁判例に即した個別具体的な例題で検討してみましょう。
具体的な事例で検討しよう①~社員が痴漢事件を起こした場合~

Q B社は、有名なラーメン店Cなどを経営する会社である。Cにてホールでの接客業を行う正社員であるAが、休日に電車で移動中に、痴漢をして逮捕され、罰金20万円の略式命令を受けた。B社は、Cに来店されるお客様へ不快感を与える出来事であると判断し、社員Aを懲戒解雇とした。かかる懲戒解雇は妥当といえるか。
A この事例は、鉄道会社の労働者が痴漢行為を行い、略式命令により20万円の罰金刑となった事例で、鉄道会社により懲戒解雇がなされたが、懲戒解雇は無効であると判断された東京メトロ事件(東京地判平成27年12月25日労判1133号5頁)を参考にしています。
同判決内では、電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の労働者であること、会社に与える影響は一般的に大きいとしつつ、マスコミによる報道がなく社会的周知の事実はなく、苦情を受けたという事実もなかったこと、今回の懲戒解雇以前に懲戒処分を受けたことはなかったこと等が考慮されています。
一方で、同じ鉄道会社の労働者の事例で小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日労判867号5頁)では、わずか半年前に同種の痴漢行為で罰金刑を受け懲戒処分となっていたことなどを考慮して懲戒解雇という最も厳しい処分もやむを得ないと判断されました。
本件では、どのように判断されるのが相当でしょうか。まず、1つ重要な観点としては、「ラーメン店Cの従業員が痴漢で逮捕!」等の報道がなされているかという点です。前述したように②「企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に」いえるかが問題となるところ、一般的な痴漢事件であれば、著名人である等の特殊な事実がない限り、具体的な就業先を含めて報道されることは稀であるように思います。
そのため、前述のような報道で社会的に周知されてしまい、苦情が出るという事態は考えにくいと思います。そのため、今回の設問では特殊な事情がない限り、「社会的評価の低下毀損」につながるおそれが「客観的に」あるとは言いにくいと考えます。
次に、重要な観点としては、同種の内容で懲戒処分を受けた経歴があるかです。今回の設問では明らかではありませんが、懲戒解雇は懲戒処分の中でも最も重い処分であり、被処分者の再就職の障害にもなり得るので、慎重に検討されなければいけないと考えられています。そのため、本件発生時より比較的近い時点で同種の内容での懲戒処分を受けている等の事実がなければ、今回の設問のような事例でいきなり懲戒解雇という判断が相当であるとは言いにくいと考えます。
さらに、本件では明らかになっていない痴漢事件の具体的な犯行態様や被害者と示談が成立しているか等も考慮要素になると考えます。今回の設問では明らかではありませんが、刑事処罰の内容が「略式命令により20万円の罰金刑」であれば、社員Aが犯行を認めており、示談等を申し出ている可能性もあるように思います。
以上のような検討を踏まえて、今回の設問の事例の事実のみで懲戒解雇を相当とすることは難しいと考えます。
具体的な事例で検討しよう②~社員が暴行事件を起こした場合~

Q B社は、地域に根付く比較的安価な居酒屋Cを複数店舗経営する会社である。Cにてホールでの接客業を行う正社員であるAが、年末の繫忙期である金曜日の閉店直後に、キッチンで料理長を務めているDと料理を出す順番を巡るトラブルから口論となり、殴り合いの喧嘩に発展した。閉店後であり、顧客は全て会計を済ませて帰っていたが、AはDに対して頭部、顔面、右手打撲等の約2週間の外来治療を要する怪我を負わせた。そして、午前2時頃に救急車や警察が会社に来る事態となり、近隣住民が集まる事態となった。事態を重く見たB社は、Aを懲戒解雇処分にした。
A この事例は、タクシー乗務員の同僚同士がタクシークーポン券をめぐるトラブルから、職場内で殴り合いの喧嘩となり、頭部、顔面、両四肢打撲、頸腰挫傷、右手第一指打撲等の傷害により約2週間の外来治療を要する怪我を負わせた事案で、午前7時過ぎに救急車や警察が会社に出動する事態となり、刑事事件として検察庁に送致されたことや、企業秩序に生じた混乱等を踏まえて懲戒解雇が有効とされた新星自動車事件(東京地判平成27年12月25日労判1133号5頁)を参考にしています。
新星自動車事件においても午前7時過ぎに救急車やパトカーが会社に来る事態となり、近隣の耳目をひいたという点を考慮されており、今回の設問のように午前2時という夜分遅くに近隣住民が集まるほどの事態になったことを踏まえると、企業秩序に与えた混乱は相当なものであり、懲戒解雇という判断もやむを得ないように思います。
ただし、人事院が公表しており、国家公務員に適用される「懲戒処分の指針について」という文献では、「他の職員に対する暴行により職場の秩序を乱した職員は、停職又は減給とする。」と定められています。こちらの基準が一般企業でもそのまま用いられるとは限られませんが、一定の参考にはなるため、暴行・傷害事件を社員が起こした場合には、停職・減給を基本線としつつ、けんかの理由、暴行の態様、傷害の有無・程度、刑事事件化の有無、勤務状況、企業秩序等を総合的に検討して判断する必要があります。
具体的な事例で検討しよう③~社員が薬物事件を起こした場合~

Q B社は、建設業者であり大手のゼネコン等の工事を下請けすることが多い企業である。B社の社員Aは、休日の日中に繫華街を歩いていたところ、様子がおかしいと感じた警察官から職務質問を受けて、任意の尿検査をしたところ、尿から大麻成分の陽性反応が出て、麻薬及び向精神薬取締法違反の容疑で逮捕された。社員Aは19歳であり、親が迎えに来たこともあって同日の夜に釈放された。社員Aからの自己申告により事件を把握したB社はAを懲戒解雇にした。かかる処分は妥当か。
A この事例は、大麻の使用があったとして大相撲の力士が解雇された日本相撲協会事件(東京地判平22年4月19日判タ1346・164)を参考にしております。同事件では「大麻を含む薬物濫用が深刻な社会問題となりつつあることは公知の事実であることに鑑みれば、被告が、力士について薬物濫用の事実を否定するために行った本件簡易検査及び本件精密検査の結果、大麻使用が認められた原告らを解雇したことは、上記の社会情勢に照らして、いわば当然の事理である。」として解雇処分を相当であるとしています。
今回の設問で問題となっている大麻の使用は、令和7年11月20日施行の「麻薬及び向精神薬取締法」により、使用自体も7年以下の懲役という重い法定刑が定められています。また、大麻等の違法薬物は、反社会的勢力の収入源となる点も大きな社会問題となっています。そして、近年多くの企業が、取引の際には「反社会的勢力の排除条項」を設けることが一般的となっています。今回のB社は、大手ゼネコンから工事の下請け受注があることからすれば、同社との取引における反社会的勢力の排除条項の内容次第では、社員Aの起こした本件が取引中止の原因になる可能性がないとは言い切れません。
このように違法薬物に関連する犯罪については、会社として厳格に対応をする必要があり、懲戒解雇等の厳格な処分もやむを得ないと考えます。
したがって、本件のように即時に釈放された事例でも、大麻使用自体が罪とならない極めて例外的な医療目的使用等の特殊事情がない限り懲戒解雇という対応が相当であると考えます。
最後に
今回は、経営者の立場から、自社の社員が刑事事件を起こした場合の対応について解説いたしました。刑事事件というのは特殊なケースではありますが、社員に対する懲戒処分の検討は、よく生じる問題です。
懲戒処分の検討は、中小企業の経営者1人で判断するのは、非常に悩ましく、労働紛争につながるリスクもあります。
佐々木法律事務所は、経営者の方が不安に思われる労働問題への対応経験も豊富であり、会社規模に応じた顧問契約もご提案しておりますので、ぜひご相談ください。
コラム監修:
弁護士法人 佐々木法律事務所
代表 佐々木幸駿